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2026/09/29
第3回 高齢者のやる気は「引き出す」のか?|リエイブルメントの個別面談で実際にやっている6つのこと
第3回 高齢者のやる気は「引き出す」のか?|リエイブルメントの個別面談で実際にやっている6つのこと

この記事は、こんな方に読んでいただきたい内容です。

  • リエイブルメント事業に興味がある介護事業者の方
  • 利用者さんの「やる気」に日々向き合っているケアマネジャーの方
  • 訪問診療・訪問リハビリを行っている理学療法士・作業療法士・医療職の方

前回の記事では、西宮市リエイブルメントモデル事業の12回のプログラムを利用開始から卒業まで全部お見せしました。

その最後に、こんな話が出てきました。

プログラムの枠組み自体は、西宮市から指定された共通のものです。その共通の枠組みの中で、特に重要になるのが、毎回の個別面談です。

今回は、その個別面談の詳細を解説します。

ひとつお断りがあります。

第1回・第2回は事業を担当している戸梶さんに話を聞いてきましたが、今回からは、実際に毎回の個別面談を担当している理学療法士の秋吉さんに聞いていきます。

なお、各章の最後には〖心理学者の視点〗という囲みを置いています。

現場でやっていることを、心理学ではどう説明するのか。解説は、神戸学院大学心理学部客員教員であり、弊社広報でもある中村珍晴が担当します。読み飛ばしても本文は成り立ちますので、興味のある方だけお読みください。

1. 目標は「決める」のではなく、生活の話から引き出す ─ 初回の面談

秋吉さん、個別面談って、いつから始まるんですか?体力測定が終わってからとか?

いや、初日からです。プログラムの1回目から、もう面談は始まってます。

初日って、まだ利用者さんのこと何も知らない状態ですよね。何を話すんですか?

まずは普段の運動量と外出の頻度ですね。3ヶ月・12回って回数が決まってるんで、終わったときに自分がどうなっていたいか、という目標を最初に立てます。

面談は、プログラムの初日から始まります。

最初に確認するのは、普段どれくらい体を動かしているか、どれくらい外に出ているか。そのうえで、12回が終わった時点の目標を立てます。

ここで秋吉さんが一番気をつけていることがあります。

なるべく、こっちが誘導しないようにしてます。普段の生活の話を聞いて、いろんなところから引き出すようにしてますね。

いろんなところ、というのは?

たとえば買い物。今は誰が行ってるのか、ちょっと前まで自分で行ってたのか。『自分で見て買ったほうがいいから、買い物とかどうですか』みたいな感じで。

趣味、買い物、散歩。普段の生活について話を聞いていくと、目標は自然と生活の範囲の話になっていきます。

ここで、現場ならではの数字が出てきました。

利用者さんの多くは、300〜400メートルくらいは歩けるんです。でも、500〜800メートルになると、しんどい。近くのコンビニには行けるけど、本当は少し離れた大きいスーパーに行きたい、という方が多いですね。

歩ける人にとっては5分か10分の差です。けれど、その差が生活の範囲を決めてしまう。だから目標は「筋力をつける」ではなく、「あのスーパーまで行く」という形で立てます。

一方で、「もう無理」と自分で線を引いてしまう方もいます。

『もう足が悪くて、外出はできないんです』って言われたら、どうするんですか?

最終的なゴールは高いままにしておいて、刻みを小さくします。400メートルが限界の人が、いきなり800メートル行けるわけではないので。

立てた目標は、介護予防手帳に書き込みます。これは西宮市が配布している様式で、弊社が独自に作ったものではありません。3ヶ月後の目標、そのために必要なトレーニング、自宅で行う自主練習のメニュー、という順に埋めていきます。

そして、その目標は1ヶ月ごとに刻まれます。例えばこのようなイメージです。

  • 1ヶ月目:運動習慣をつける
  • 2ヶ月目:手の力で支えながら立てるようになる
  • 3ヶ月目:テーブルに手をつかずに立つ

12回で終わることが最初から決まっているプログラムだからこそ、1ヶ月ごとの刻みが噛み合います。

中村珍晴

〖心理学者の視点〗
解説:中村珍晴

なぜ「こちらから決めない」ことが重要なのでしょうか。心理学には自己決定理論という考え方があり、人は自分で選んだと感じられるときに、その行動を続けやすいことが分かっています。こちらが誘導して決めた目標は、どれだけ正しくても「言われたからやる」目標のまま残ります。一方で生活の話から出た「あのスーパーまで行きたい」という目標は、本人が決めたことです。だからこそ重要なのは、支援者が正しい目標を決めてあげることではありません。本人の言葉の中から、その人にとってやりたいと思える目標を一緒に見つけていくことです。

目標は、生活の話から見つける(初回の面談)

2. 「なぜこの運動なのか」を分かりやすく説明する

目標が決まったら、次は運動メニューですよね。秋吉さんが決めるんですか?

ここは僕ら理学療法士・作業療法士の得意分野ですね。まずは初回の体力測定で実施する立ち座りと歩くテストを見ながら、僕らなりに動作を分析して、この筋肉が弱いな、というのを考えてます。

第2回でご紹介したCS-30(30秒椅子立ち上がりテスト)とTUG(歩行テスト)は、記録のための測定であると同時に、専門職にとっては動作分析の材料です。どこの筋肉が弱いのかを見立てたうえで、運動メニューを決めます。

そして、運動メニューを伝えるときは必ず理由を説明します。

『何のためにこの運動をするのか』『このメニューを継続したらどういう効果があるのか』は、必ず伝えるようにしてます。ただ運動してください、では終わらせない。『今、私はここが弱いから、これをすれば良くなるんだ』という視点を持ってもらえるように説明をします。

理由を説明すると、何か変わるんですか?

変わりますね。たとえば、「何かにつかまらないと立てない」という困りごとがあったとします。その背景には、太ももやお尻の筋力が関係していることがあります。
そこで、「この筋肉を鍛えると、今より立ちやすくなりますよ」と理由まで伝える。
すると本人の中で、「筋トレをする」ことと「楽に立てるようになる」ことがつながります。

そのうえで、種目は本人が選びます。

例えばこのようなイメージです。

「かかと上げの運動には、座って行う方法と立って行う方法があります。ちなみに、立って行うほうが負荷は高くなります。どちらの方法でやってみますか?」

また、膝まわりの種目を追加する場合も、「立つために必要な筋肉の中で、今は膝まわりが特に弱いので、ここも一緒に取り組んでいきましょう」と、その場で理由を伝えます。

このように、何をするかだけでなく、「なぜこの運動をするのか」まで本人と共有することが大切です。

この一手間の説明があることで「やらされる運動」を「自分で決めた運動」に変えていきます。

中村珍晴

〖心理学者の視点〗
解説:中村珍晴

自己決定理論では、人は「なぜそれをするのか」に納得できるほど、与えられた行動を自分の意思として受け入れやすくなると考えます。だからこそ、意味のある理由を伝えることが大切です。「太ももを鍛えると、今より立ちやすくなりますよ」と運動と本人の困りごとをつなげて説明するようなイメージです。すると、「言われたからやる」から「自分のためにやる」へと変わりやすくなります。専門職の知識は「指示」ではなく、本人が納得して選ぶための理由として渡すことが重要なのです。

「なぜこの運動なのか」を説明する

3. 面談は日々の記録を一緒に見ることから始める

2回目以降の面談って、最初に何を話すんですか?『調子どうですか?』とか?

毎回、自主練習表を一緒に見るところから始めます。この1週間、家でどれくらいできたか。◎○△で書いてもらってたり、一言日記みたいに、その日の調子を書いてくれる方もいます。

毎回の面談の冒頭は、必ず記録を一緒に見るところから始まります。

秋吉さんは、前の週との差分を見つけて、言葉にして伝えることを大切にしています。

先週と比べて二重丸が増えてたら、『ここまでやってますね、前より体力がついてきてますね』と言えますし、歩数を書いてくれてる方なら、『この日は出かけてるから、めちゃくちゃ歩数が伸びてますね』とか。先週より良くなってるところをピックアップして、お話しするようにしてます。

良くなってるところって、本人はもう分かってるんじゃないですか?

それが、意外と気づいてないんですよ。だから言葉にして伝えています。

体力測定の数字も、歩く様子を撮った動画も、同じように一緒に見ます。

たとえば、立ち上がりの動画を見ながら「前回は少しふらついたり、『んーしょ』という感じだったのが、今回は割とスーッと立てていますね」と伝えることもあります

「よくなってますよ」と言うのではなく、客観的な情報を元にポジティブなフィードバックをすることが面談の土台になっています。

中村珍晴

〖心理学者の視点〗
解説:中村珍晴

心理学では、「自分ならできる」という感覚を自己効力感と呼びます。自己効力感を高めるうえで特に強いのが、自分自身で、できたと実感する経験です。一方、人からの励ましだけでは、その効果は比較的弱いとされています。だからこそ、「できていますよ」と伝えるだけでなく、回数や距離などの記録を見せながら、本人が自分の成長を実感できるようにすることが大切なのです。もうひとつ、自分の行動を自分で記録すること自体が、行動を変えることが分かっています(セルフモニタリングと呼ばれ、行動を続けるための方法として最も安定して効果が出るもののひとつです)。自主練習表は、その両方を兼ねた道具になっています。

面談は日々の記録を一緒に見ることから始める

4. 自主練習しなかった日を責めない。ただし、放置もしない

記録を見てると、当然△とか、空欄の日もありますよね。そういう日はどうするんですか?

まず、その日に何があったかを聞きます。筋肉痛だった、ということなら、筋肉痛自体は悪いことじゃないので。前日までしっかり運動して疲労がたまってるわけだから、その日に休んだのは『いい判断だと思います』と言います。

家の用事で時間がなかった、という日は?

僕らが渡してる自主練習って、普段まったく運動していない方に運動してほしくて渡してるものなんです。洗濯や掃除をしてたら、家の中で体は動いていますよね。運動自体はできてるので、『自主練習ができなかったから悪い、ではなくて、他のところで体を動かしてるから大丈夫ですよ』と伝えてます。

前提として、秋吉さんは毎回、疲労感と運動の強度を必ず確認しています。 もともと運動習慣のなかった方が、いきなり毎日体を動かすわけです。無理が続けば、どこかで挫折します。きつければ強度と頻度を落として、徐々に上げ直すようにしています。目的は「やり切ること」ではなく「続くこと」だからです。

そのうえで、できなかった日は、まず理由を聞きます。筋肉痛なら「いい判断」。家事で時間がなかったなら「生活の中で運動できている」。

実際にこのようなやりとりがありました。

家の用事が大変で、それでも自主練習も頑張ってて、もう疲労困憊です、という女性の方がいました。それで、さっきの話をしたんです。洗濯とか掃除をしてたら全身の運動になってるので、その日はゆっくり休んでもらっていいですよ、と。そうしたら『あ、そんな感じでいいんだ』という感じで、ちょっと安心されて。それまで『頑張ってるよ』という顔だったのが、ほぐれて、笑顔が増えました。

その後、どうなったんですか?

次の週に、ご自身から『この日はゆっくりさせてもらった。でもその分、他の日はしっかり頑張った』と言ってくれたんです。いい捉え方をしてもらえたのかなと思いました。

他にも猛暑と家事で運動できない日が増えていた利用者さんに、秋吉さんはこう伝えていました。

「お家のことが多い日は、全然休んでもらって大丈夫です。これは絶対にしないといけない、というより、『今日は運動が足りないな』という日があれば、他の日を使って運動量を確保しましょう。」

「歩く練習は、もう減らしていいと思います。家事をしてたら家の中でたくさん歩いてるので、普段の生活から歩く分は確保できてます。」

中村珍晴

〖心理学者の視点〗
解説:中村珍晴

本音を話してもらうために大切なのは、「失敗しても責められない」という安心感をつくることです。たとえば「今週は運動できませんでした」と話したときに、「なぜできなかったんですか」と責められたら、次から失敗を隠したくなります。一方で、「できなかったんですね。何か理由がありましたか?」と受け止めてもらえれば、本人は本当のことを話しやすくなります。人は、否定される不安が強いほど、失敗や弱みを隠しやすくなります。大切なのは、恐怖で続けさせることではなく、できなかったことも含めて一緒に考え、本人の中から「もう一度やってみよう」という気持ちが生まれるように支えることです。

自主練習しなかった日を責めない。ただし、放置もしない

5. 変化に最初に気づくのは、支援者ではなく本人

この記事で一番お伝えしたいエピソードです。

利用者Bさん(仮名)は、椅子から立つとき、テーブルに手をついて踏ん張らないと立てない状態でプログラムを始めました。2ヶ月目が終わる頃の面談で、記録を見ながら、Bさんがふとこう言いました。

Bさん「若干ね、このテーブルに手をつく力加減が、軽くなりました。」

秋吉さんの返しは、「すごいですね」ではありませんでした。

秋吉さん「ご自身でそう実感できているのが、素晴らしいですね。」

そして、その直後です。Bさんの口から、次の目標が出てきました。

Bさん「手をつかないで、立ちたいな。」

秋吉さんが「次は手をつかずに立てるようにしましょう」と言ったのではありません。本人が自分の変化に気づき、それを認められた直後に、本人の側から出てきた言葉です。

秋吉さん、あの場面、『すごいですね』じゃなくて『ご自身で実感できているのが素晴らしい』って返してましたよね。あれ、意識してるんですか?

そうですね。こちらから全部提供するというよりも、本人に頑張っていただけるように、同じ立場に立って一緒に考えることは意識してます。実感できてるというのは、本人が自分の体を見てるということなので。

同様に利用者Aさんは、3回目の面談で記録を見ていたとき、自分から「この種目は、3セットにしたほうがいいですか?」と負荷を上げることを提案したことがありました。

やる気は、外から注入するものではありません。本人が自分の変化に気づいた瞬間に、内側から出てきます。 支援者の仕事は、気づける材料(記録・数字・動画)を毎週そろえて、気づいたときにそれを認めることでした。

中村珍晴

〖心理学者の視点〗
解説:中村珍晴

フィードバックで大切なのは、ただ「すごいですね」と褒めることではありません。重要なのは本人が自分の変化に気づけるようにすることです。人は、ある行動のあとに「うれしい」「やってよかった」と感じる経験があると、その行動をもう一度しようとする可能性が高まります。これを行動心理学では、正の強化といいます。つまり、「頑張った結果、本当にできるようになった」という喜びそのものが、次の行動を後押ししてくれるのです。だからこそフィードバックでは、ただ評価するのではなく、本人が自分の変化を実感できるように返すことが大切です。

変化に最初に気づくのは、支援者ではなく本人

6. 「もう、やめたい」と言われた日

もちろん利用者さん全員が全てを継続できているわけではなく、人によっては途中でやめたいとおっしゃる方もいらっしゃいます。

たしか『やめたい』とおっしゃった方がいましたよね。あのとき、秋吉さんはどうしたんですか?

まず、やめたい理由を聞きます。それが運動のことなのか、生活のことなのかによって、対応できることが変わるので。

辞めたいと言われた後に最初にすることは、やめたい理由を「運動の領域」と「生活の領域」に分けることでした。

運動がしんどい、自主練習がきつい、という理由なら、運動メニューで調整できます。

体操のカウントに合わせて10回しなくても、「ご自身のタイミングで8回で大丈夫ですよ」と声をかけることもできます。

僕らが関わるところなら、自由に対応できますよ、という意思は伝えます。

生活のことだったら?

お家の事情だと、僕らは直接は介入しづらいんです。それでも、どこか自分たちが介入できるところはないかな、というのは探します。

実際にこのようなやりとりがありました。

Aさんは、ご家族と暮らしながら家事のほとんどを担っています。7回目の面談で、Aさんはこう切り出しました。

Aさん「来週あたりで、ちょっとこちらをやめようかなと思ってるんです。」

理由は、運動ではありませんでした。

Aさん「ここで運動すること自体は、別にしんどくないんです。でも、帰ってからの用事が。午前中にしていたことが、全部お昼からに回ってしまうから。」

秋吉さんの対応は以下の通りです。

① 気持ちを受け止め、やめたい理由を整理する。

秋吉さん「僕自身、お話を聞いて『確かにそうだな』というところはあるので、賛成的な意見でもあるんですけど。」

秋吉さん「何が一番、お家の中でしんどいですか?」

聞いていくと、Aさんは庭の水やり、洗濯、拭き掃除、食事づくりを、ほぼ毎日のペースでこなしていました。なかでも負担が大きいのは、掃除、料理、買い物の3つでした。

② 家事のやり方を一緒に見直す。

秋吉さんは、Aさんの家事の負担を聞き取りながら、家事そのものを軽くする方法も一緒に探りました。

秋吉さん「例えば、この掃除を2日に1回の頻度にしてみる、というのはどうですか?」

休む日をとることの意味も、体の仕組みから伝えています。

秋吉さん「筋肉は、運動で使ったあと、休息をとって回復するときに少し大きくなるんです。たまに休む日をとってもらうのも、いいと思います。」

「やらないでおくのは嫌」というAさんの感覚も受け止めながら、まずは一度試してみることを提案しました。

秋吉さん「一回、挑戦してみましょう。」

家事の頻度や段取りを、体の回復も考えて組み直し、まず自宅で試せる形に落とし込む。運動の話から、生活全体の調整に踏み込んだ場面です。

③ 体の変化を判断材料として伝える。

翌週、Aさんは改めて「8月いっぱいは休みたい」と申し出ました。秋吉さんは説得するのではなく、専門職として見てきた体の変化を伝えています。

秋吉さん「残りは4回です。もしこれが『残り8回です』ということなら話は別ですけど、せっかくここまで来たし、実際によくなってきているところもあるので。」

秋吉さん「最初は立ち座りが7回、歩くのが13秒台だったのが、9回と9秒台まで上がってきています。日頃の生活でたくさん動いているのに加えて、筋肉に特化した運動をされているからだと思うんです。」

秋吉さん「お膝も伸びてきて、力もついてきています。立ち座りも本当にスムーズになっているので、今、右肩上がりな感じはしています。」

④ 本人が納得して選べるよう伴走する。

ここで秋吉さんがしているのは、Aさんを説得して続けさせることではありません。

一度「やめたい」という気持ちを受け止め、家事の負担を一緒に整理し、やり方の工夫を一緒に考えたうえで、「ここまで続けたことで、実際にこれだけ変化している」という事実を伝えています。

専門職としての見立てを判断材料として伝え、ご本人が納得して選べるよう、判断の過程に伴走します。

支援者にできるのは、本人が納得して判断できるように、気持ちを受け止め、必要な情報を渡し、選択肢を一緒に整理することです。

「続けてもらうこと」だけをゴールにするのではなく、本人が自分の生活にとって何が一番いいのかを、根拠をもって選べる状態をつくる。それが、元の暮らしを取り戻すための本人主体の支援なのだと思います。

中村珍晴

〖心理学者の視点〗
解説:中村珍晴

なぜ、説得しすぎると逆効果になるのでしょうか。人は「自分で決めたい」という感覚を持っています。ところが、「続けたほうがいいですよ」「やめないほうがいいです」と強く言われると、自分の選択を奪われたように感じ、反対の行動を取りたくなることがあります。心理学では、これを心理的リアクタンスと呼びます。だから大切なのは、相手を言い負かすことではありません。まず気持ちを受け止め、そのうえで体の変化や生活上の負担を判断材料として伝えましょう。本人が納得して選べる関わりのほうが、主体的な判断につながりやすいのです。

「もう、やめたい」と言われた日

まとめ:やる気は「引き出す」より土台を整えることが大切

今日聞いた6つ、どれも派手じゃないですね。

そうですね。こちらから全部提供するというよりも、本人に頑張っていただけるように、同じ立場に立って考えて決める。それだけと言えば、それだけです。

今回は、リエイブルメントの個別面談で実際に行っている6つのことをご紹介しました。

  1. 目標は「決める」のではなく、生活の話から引き出す
  2. 「なぜこの運動なのか」を説明する
  3. 記録を一緒に見る
  4. やらなかった日を責めない
  5. 変化に最初に気づくのは本人。それを認める
  6. 「やめたい」気持ちを受け止め、暮らし方の工夫と判断材料を一緒に考える

6つに共通していたのは、本人が納得して選べるよう伴走し続けること、そして専門職の知識を「指示」ではなく「理由」として渡していることでした。

心理学の言葉で束ね直すと、6つは3つの条件に集約されます。

  • 理由を伝える(1・2)
  • 気持ちを認める(3・4・5)
  • 納得して選べるようにする(1・2・6)

この3つが整うと、やる気は「引き出す」ものではなく、条件を整えると内側から出てくるものになります。いったん折れても、戻ってこられます。

そして、この面談には最初から「卒業」が織り込まれています。

自主練習表は修了後もご本人の手元に残ります。最終回が近づいた面談で、秋吉さんはこう伝えていました。

「この紙は、今後もお持ちください。今は僕が種目を決めていますが、他のものを足してもらってもいいですし、1日10回3セットが楽になってきたら、10回を15回に、3セットを4セットに。負荷はご自身で上げていけます。」

専門職による継続的な支援を必要としない生活は、最終回ではなく、毎回の面談の中に入っていました。

次回(第4回)は、この面談を3ヶ月続けると何が起きるのかを、お二人の利用者さんの記録と、修了された方のその後まで追いかけてお伝えします。 うまくいったことも、3ヶ月では解決しなかったことも、そのまま書きます。

この記事は、西宮市よりリエイブルメントモデル事業を受託している株式会社ONE flatが、現場の経験をもとに作成しています。個別面談の内容は、ご本人の同意の範囲で、個人が特定されない形に編集しています。