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2026/07/07
第1回「リエイブルメント」とは?介護の常識を変える新しい取り組みを事業者向けにわかりやすく解説【2026年版】

この記事は、こんな方に読んでいただきたい内容です。

  • 来年度からリエイブルメント事業を検討している介護事業者の方
  • 利用者さんにどんなサービスを紹介すればいいか悩んでいるケアマネジャーの方
  • 訪問診療や訪問看護・リハビリを行っている医療職の方

「リエイブルメント」という言葉を聞いたことはありますか?

まだ聞き慣れない方が多いかもしれません。

でも、実際にこの取り組みを始めた地域では、利用者の約7割が3ヶ月後に介護サービスなしの生活に戻ることができたという結果が出ています。

これから6回に渡って、リエイブルメント事業の概要から具体的な介入内容まで解説します。

第1回の今回は、西宮市でリエイブルメント事業を担当している株式会社ONEflatの戸梶さんに、新人スタッフが素朴な疑問をぶつける形で、その中身をわかりやすくお伝えしていきます。

2040年に介護現場はこう変わる。知っておきたい3つの数字

戸梶さん、そもそもなんで今さら介護の話って大事なんですか?
なんか昔からずっと言われてる気がして…

気持ちはわかる(笑)。
でも数字を見たら、またその話かとは言えなくなるよ。ちょっと聞いてみて。

2025年時点で、介護が必要な認定を受けている人は全国で約716万人にのぼると推計されています。

日本の人口の約6%にあたる人数です。

さらにこの数が2030年には900万人を超える見込みがあり、5年でおよそ200万人増える計算です。

それだけではありません。介護にかかるお金の規模も膨らんでいます。

介護保険制度がスタートした2000年は3.6兆円だった費用が、2022年には13.3兆円になりました(厚生労働省資料より)。

約20年で4倍近くに増えた計算です。

そして2040年には約26兆円になると試算されています。

しかも、介護の仕事をする人が2025年時点ですでに31万人不足するとも言われています。

「必要な人は増え続けるのに、支える人は足りない」という現実が、今の介護業界が直面している構造的な問題です。

世話をしてあげる介護が、かえって人を弱くしてしまうことがある

でも、困っている人を助けるのは当然じゃないですか?
それが問題になるってどういうことですか?

うん、助けること自体は絶対に必要。
ただ、「やってあげ続けること」と「できるよう支えること」は全然違うんよ。

着替えを手伝う、食事を用意する、移動を支える。こうした支援はもちろん必要な場面があります。

ただ、そこには一つの落とし穴があります。

人の体は、使わないとどんどん弱くなります。

医学的には、安静状態が続くと筋肉量は1日に約1〜3%ずつ落ちると言われています。

1週間寝たきりになると、足の筋力が10〜15%低下することもあります。

「やってもらうことに慣れた体」は、それだけ自分で動く力を失っていくのです。

気持ちの面でも変化が起きます。

「どうせ自分にはできない」「誰かに頼めばいい」という感覚が少しずつ育ち、自分から動こうとする意欲が落ちていきます。

これは誰かが悪いわけではありません。

でも結果として、介護が必要な状態がずるずると続き、やがて介護の必要度が上がっていきます。

費用も、必要な人手も、どんどん増えていきます。

「助けているつもりが、かえって依存を生み出してしまっていた」という悪循環が、介護の世界では長年課題とされてきました。

リエイブルメントとは何か?「また自分でできる」を目指す介護

じゃあ、どうすればいいんですか?

そこで出てくるのがリエイブルメントっていう考え方!
一言でいうと、3ヶ月で卒業を目指すプログラム。

え、卒業?介護に卒業があるんですか?

そう、そこが一番のポイント!
ずっと通うんじゃなくて、通わなくてよくなることを目指すんよ。

「リエイブルメント(Reablement)」の語源は、Re(再び)+able(できる)。

つまり「再びできるようになること」を目指すアプローチです。

1990年代にイギリスで生まれ、現在では北欧・オーストラリア・カナダなどの先進国に広まっています。

日本でも、厚生労働省が「短期集中予防サービス(C型)」という名前で制度化し、市区町村が取り組める仕組みとして整備されています。

リエイブルメントの考え方を従来の介護サービスと比べると、その違いが明確になります。

従来の介護サービスリエイブルメント
目的できないことを補う自分でできるようになる
期間長期間(継続が前提)3ヶ月で終了(卒業が目標)
ゴール安全・安心な生活を維持する元の生活を自分の力で取り戻す
支援の中心身体介助・生活援助本人の意欲と行動を引き出す

最大の特徴は卒業があることです。

3ヶ月・週1回・全12回のプログラムを終えたら、介護サービスを使わずに自分の生活を取り戻すことを目指します。

なるほど、ただの体操とは違うんですね。
でも、そのプログラムって誰が担当するんですか?

そこがポイントで、うちは理学療法士、作業療法士、管理栄養士がメインで関わってる。
資格を持った専門職がいるかどうかで、結果が全然変わってくるんよ。

え、そんなに違うんですか?

体の状態を正確に評価できる人間が、毎回ちゃんと関わるかどうかの差は大きいよ

ここで、リエイブルメントが一般的な介護サービスと決定的に異なる点をもう一つお伝えします。

このプログラムの中心を担うのは、理学療法士作業療法士というリハビリテーションの国家資格を持つ専門職です。

理学療法士は、立つ・歩く・座るといった体の基本的な動きを専門とします。

筋力や関節の動きを細かく評価し、「どこが弱くなっているか」「何をすれば改善するか」を判断して、その人に合った運動プログラムを組み立てます。

作業療法士は、日常生活の作業全体を専門とします。

着替える・料理をする・外出するといった具体的な生活動作を身体機能だけでなく認知機能や生活環境まで含めて総合的に評価します。

さらに作業療法士が特に力を発揮するのが、「その人がどんな生活を取り戻したいか」という意欲・目標の引き出し方です。

国際的なガイドラインでも、リエイブルメントでは作業療法士を中心とした多職種チームによる本人との対話が重要視されています。

ONEflatのプログラムでは、理学療法士と作業療法士が毎回の個別面談を担当しています。

この専門職による個別面談があるからこそ、体が動けるようになったのに生活に戻れないという状況を防ぐことができます。

さらに、ONEflatのリエイブルメントでは、運動だけでなく、日々の食生活や生活習慣にも目を向けています。

外部委託の管理栄養士にも関わっていただき、全12回のプログラムのうち2回、20分間の栄養講座を実施しています。

講座では、「どんなものを食べると健康維持につながるか」「今の食生活に何を少し加えるとよいか」など、毎日の暮らしに活かせる内容をお伝えします。

身体だけでなく、食事・活動・人とのつながりまで含めて生活全体を支えることも、リエイブルメントの大きな特徴です。

数字で見る「3つの成功事例」

でも、本当にそんなうまくいくんですか?
なんかきれいごとっぽく聞こえて…

その疑問は正しい(笑)
だから数字を見てほしい。実際にやった地域のデータがこんな感じ。

リエイブルメントを実際に取り入れた地域では、どんな結果が出ているのか。国内の3事例をご紹介します。

① 山口県防府市(2016年〜継続)

防府市は、日本でリエイブルメントを最も本格的に取り入れた自治体のひとつです。

新たに要支援と認定された方に、原則として全員このプログラムを提供する形で運営しています。

結果として、利用者の61.3%がプログラム終了後に介護サービスなしの生活に戻ることができました

また、月あたり約700万円の介護給付費が削減できたというデータも出ています。

② 神奈川県相模原市(2022年)

相模原市で実施しているのは、民間の介護事業者です。

行政ではなく、民間企業が受託して運営しているという点で注目されています。

2022年度の実績では、利用者の72%が3ヶ月後に介護サービスを使わない生活に復帰しています。

③ 大阪府寝屋川市(2018年)

寝屋川市では、医療経済研究機構・千葉大学・成城大学と市が共同で、リエイブルメントの効果を科学的に検証しました。

プログラムを受けたグループは、受けなかったグループと比べて介護サービスを利用しない割合が約3倍になり、外出する頻度も約1.3倍に増えました。

なぜリエイブルメントは効果が出るのか?理由は体だけでなく、心にも働きかけるから

でも結局、体の機能を鍛えれば自然と生活も戻るんじゃないですか?

それが一番の勘違いなんよ。
体が動けるようになっても、気持ちがついてこなかったら人は動かない。

どういうことですか?

たとえば、回復しても「また転んだらどうしよう」って怖くて外に出られない方って多いんよ。
体と心は、両方揃わないといけない。

3つの成功事例に共通しているのは「体の機能を回復させること」だけを目標にしていない点です。

リエイブルメントでは、毎回の「個別面談」を通じて、利用者さん一人ひとりの「どんな生活に戻りたいか」という気持ちを丁寧に引き出すことを大切にしています。

「孫の運動会を見に行きたい」

「近所のスーパーに一人で行けるようになりたい」

そうした具体的な目標が見つかると、体を動かすモチベーションも、日常生活の中での意識も変わってきます。

身体機能の回復と気持ち・意欲の回復。

この両輪が揃って初めて、元の生活に戻るという本当のゴールに近づくことができます。

この個別面談の中身については、第3回の記事で詳しくご紹介します。

ONEflatが実際の面談でどんな問いかけをしているか、どうやって利用者さんのやる気を引き出しているかを現場のリアルな視点でお伝えする予定です。

ケアマネジャー・訪問診療の先生へ

なるほど!じゃあ、どんな人に向いてるサービスなんですか?

ざっくり言うと「まだそこまでじゃない」と思ってる人が一番向いてる。

…それ、どういう意味ですか(笑)

デイサービスはまだ行く気になれない人っているでしょ。
その方がまさに対象なんよ。

リエイブルメントのプログラムの対象になるのは、以下の方です。

  • 要支援1または要支援2の認定を受けている方
  • 事業対象者(介護保険の認定は受けていないが、支援が必要と判断された方)

ケアマネジャーや訪問診療の先生の目線で言うと、こんな方がいたら紹介を検討してみてください。

  • 「最近、足元がおぼつかなくなってきた気がする」という方
  • 「デイサービスはまだ行く気になれない」という方
  • 外出の機会が減り、家に閉じこもりがちになってきた方
  • 入院・手術の後、リハビリは終わったけれど元の生活には戻れていない方

こうした方に「3ヶ月間だけ試してみませんか?費用はかかりませんし、送迎もあります」と声をかけていただくだけで、大きく変わる可能性があります。

【まとめ】介護卒業という選択肢がこれから当たり前になっていく

なんか聞いてたら、今まで当たり前だと思ってた介護のイメージが変わってきました。

そうでしょ。介護ってずっと続くものじゃなくていい。
そういう選択肢があることを、もっと多くの人に知ってほしいね。

2040年に向けて、介護が必要な人は増え続けます。支える人材は足りなくなります。費用は膨らみ続けます。

その中で、ずっと介護を受け続ける以外の選択肢をどれだけ作れるか。それが、これからの介護事業者・ケアマネ・医療職の方に問われていることだと私たちは考えています。

リエイブルメントは、そのための一つの答えです。

「してあげる介護」から「また自分でできる介護」へという考え方が、これからの時代を生き抜くうえでの大きなヒントになるはずです。

次回(第2回)では、西宮市のリエイブルメントモデル事業で実際に行っているプログラムの中身を全部お見せします。

週1回・全12回・2時間の中で何をするのか、どんな流れで進んでいくのか、事業として始めるために何が必要なのかを詳しく解説します。

参考資料

  • 令和7年版高齢社会白書(内閣府)― 高齢化率・高齢者数の推移/要介護・要支援認定者数の推計(第1章)
  • 介護保険事業状況報告(厚生労働省)― 要介護・要支援認定者数の推計(第1章)
  • 介護費用・介護報酬改定・保険料・利用者負担の推移(財務省)― 介護費用の推移 3.6兆円→13.3兆円(第1章)
  • 2040年を見据えた社会保障の将来見通しについて(平成30年)(厚生労働省)― 2040年の介護給付費約26兆円の試算(第1章)
  • 第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について(厚生労働省)― 2025年の介護職員31万人不足(第1章)
  • Kortebein P, et al. “Effect of 10 days of bed rest on skeletal muscle in healthy older adults.” JAMA, 2007. ― 安静による筋肉量の低下(第2章)
  • 介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン(厚生労働省)― 短期集中予防サービス(C型)の制度的位置づけ(第3章)
  • 介護予防・日常生活支援総合事業とリエイブルメント(健康長寿ネット)― リエイブルメントの制度的位置づけ(第3章)
  • NICE(英国国立医療技術評価機構)ガイドライン(健康長寿ネット掲載資料より)― 作業療法士を中心とした多職種チームによる対話の重視(第3章)
  • 高齢者の自立支援に資する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の活用(公益社団法人日本理学療法士協会/厚生労働省介護給付費分科会資料、平成29年)― 理学療法士・作業療法士の役割と自立支援への活用(第3章)
  • リエイブルメント実施自治体 掲載データ(リエイブルメントポータルサイト/株式会社いくよう)― 防府市の卒業率61.3%・給付費削減(第4章)
  • 短期集中予防サービス(リエイブルメントプログラム)令和4年度実績(相模原市公式ホームページ)― 相模原市72%(第4章)
  • C型サービスモデル事業におけるリエイブルメントに基づく介入効果の検証(医療経済研究機構・千葉大学・成城大学・寝屋川市 共同研究、2018年/学術誌『作業療法』44巻4号)― 寝屋川市の研究結果(第4章)